ホテル業界のリアル2024年版:給料・ブラック実態から待遇改善・働きがいまで

待遇・労働環境

はじめに

ホテル業界への就職や転職を検討している皆さんにとって、最も気になるのは「給料や福利厚生」「働きやすさ」、そして「いわゆるブラック企業ではないか」といった待遇や労働環境のリアルな情報ではないでしょうか。かつては「給料が低い」「長時間労働」といったイメージが先行することもあったホテル業界ですが、近年、大きな変革期を迎えています。

特に2025年に向けて、業界全体で待遇改善の動きが加速しており、その最前線で注目すべきは、老舗名門ホテルによる積極的な賃上げです。今回は、最新のニュースリリースを基に、帝国ホテルの賃上げ動向に焦点を当て、そこから見えてくるホテル業界の「ホワイト化」への道のりと、求職者が知っておくべき企業選びのポイントを深掘りしていきます。

帝国ホテルが示す業界の新たな潮流:3年連続賃上げの背景

2025年の春季労使交渉において、日本のホテル業界を牽引する名門の一つ、帝国ホテルが従業員の賃金を平均約6%引き上げると労働組合に回答しました。これはベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせたもので、特筆すべきは、ベースアップが3年連続で実施される点です。月額約1万6900円の賃上げは、従業員の生活を支える上で大きな意味を持つでしょう。同時に、ビジネスホテル大手の東横インも4月から約7%の賃上げを実施しており、業界全体で待遇改善への意欲が高まっていることが伺えます。

この動きは、単に個別企業の経営判断に留まるものではありません。背景には、長らくホテル業界が直面してきた深刻な人手不足があります。帝国データバンクの調査(2024年版)によると、宿泊・ホテル業界における正社員の人手不足率は75.5%、非正社員では78%と極めて高い水準にあります。この人手不足を解消し、優秀な人材を確保するためには、魅力的な給与水準と働きやすい環境が不可欠となっているのです。

参考記事:帝国ホテル6%賃上げ、3年連続ベア 東横インは7%

「官製春闘」から「優秀人材確保」へ:賃上げのパラダイムシフト

かつて日本の賃上げは、政府が産業界に賃上げを求める「官製春闘」の影響を強く受けてきました。しかし、現在のホテル業界の賃上げは、それだけが理由ではありません。帝国ホテルの事例に見られるように、企業が自律的に賃上げに踏み切る背景には、より本質的な経営戦略の変化があります。

それは、まさに「優秀な人材の確保」です。コロナ禍を経て観光需要が急回復する中で、ホテル業界は再び活況を取り戻しています。しかし、その一方で、パンデミック期間中に他業種へ流出した人材の呼び戻しや、新たな人材の獲得が喫緊の課題となっています。

日経新聞の記事でも触れられているように、産業界では年功序列モデルが崩れ、「脱一律」の動きが広がり、成果や役割に応じて賃金に差をつける流れが強まっています。これは、ホテル業界においても、単に基本給を上げるだけでなく、個々の従業員の能力や貢献度を正当に評価し、それに見合った報酬を与えることで、モチベーション向上と定着率アップを図る狙いがあると言えるでしょう。

賃上げだけではない!ホテル業界が取り組む待遇改善の多角化

賃上げは、待遇改善の重要な柱ですが、それだけが全てではありません。ホテル業界では、従業員の働きがいやワークライフバランスを向上させるための多角的な取り組みが進められています。

例えば、あるホテル企業は「お客様にどうやったらご満足していただけるのか」「お客様を笑顔にするにはどうしたらいいのか」というミッションを掲げつつも、「それを行うためには、まず従業員が幸せで、従業員が笑いながら働けるような、そんな会社じゃないとそのミッションってできないですよね」という考え方を基盤にしています。そのために、勤務体系や処遇面の改善を毎年行っていると明言しており、2022年にはエリアを限定した働き方を可能にするなど、柔軟な働き方の導入も進んでいます。これにより、従業員は自身のライフスタイルに合わせてキャリアを築きやすくなっています。

また、国土交通省の調査報告書「ホテル・旅館における調理部門の人手不足対策事業」でも、給与水準の向上に加え、以下のような対策が提言され、多くの企業で導入が進んでいます。

  • 福利厚生の拡充:従業員寮の整備、子育て支援プログラム(託児所併設、育休取得推進)など。
  • 労働環境の改善:柔軟な勤務体制、有給取得の推進、ハラスメント対策など。
  • ITや技術による業務効率化:バックオフィス業務の自動化、スマートチェックイン導入などによる従業員の負担軽減。
  • キャリアパスの明確化:人材育成と昇進制度の透明化。

これらの取り組みは、従業員の離職率低下にも直結します。厚生労働省のデータによると、宿泊・ホテル業界の離職率は全業界の中でもトップクラスの25.6%と高い水準にありますが、給与水準への不満、長時間労働、評価制度の不透明さなどが離職の主な原因とされています。賃上げと並行して、これらの課題を包括的に解決しようとする動きは、業界全体の「ホワイト化」を後押しするものです。

関連情報:ホテル業界のリアルな待遇と労働環境:就職前に知っておくべきメリット・デメリット

求職者が注目すべき「ホワイト企業」の選び方

ホテル業界への就職・転職を考える際、求職者はどのような点に注目すべきでしょうか。「ブラックか」「働きやすい会社はどこか」という疑問に答えるためには、以下の多角的な視点から企業を評価することが重要です。

  1. 賃上げの継続性と透明性:帝国ホテルのように、継続的な賃上げに取り組んでいる企業は、従業員への投資を惜しまない姿勢の表れです。単年度の賃上げだけでなく、中長期的な給与水準の向上計画があるかを確認しましょう。
  2. 福利厚生の充実度:住宅手当、育児・介護支援、健康経営への取り組みなど、従業員の生活を多方面からサポートする制度が整っているかを確認しましょう。
  3. 柔軟な働き方の導入:エリア限定勤務、時短勤務、有給休暇の取得しやすさなど、ワークライフバランスを重視した働き方が可能かどうかも重要な指標です。
  4. キャリアパスの明確さ:昇進制度や研修制度が整備され、自身のキャリアを具体的に描ける企業は、長期的な成長を期待できます。ホテル業界のキャリアパス完全ガイド:新卒・転職者が成功するモデルケースも参考にしてください。
  5. 従業員エンゲージメントへの取り組み:従業員の意見を吸い上げる仕組みや、心理的安全性の高い職場環境づくりに注力している企業は、働きがいを感じやすいでしょう。

これらの要素を総合的に判断することで、求職者自身にとっての「ホワイト企業」を見つけることができるはずです。

関連情報:ホテル業界で本当に働きやすい会社はどこ?:現役アナリストが教えるホワイト企業の見極め方

お客様の意識も労働環境に影響する

最後に、少し視点を変えて、お客様側の意識がホテルスタッフの労働環境に与える影響についても触れておきましょう。最近のニュースでは、「旅館でやりがちな“NG行動” チェックアウト前にやってほしいこととは」といった記事が話題になっています。例えば、客室をひどく散らかしたままチェックアウトしたり、備品を無断で持ち帰ったりする行為は、清掃スタッフやフロントスタッフの業務負担を増大させ、結果として労働環境を悪化させる一因となります。

参考記事:「迷惑してるって本当?」→「スタッフの仕事が増えてしまいます」 旅館でやりがちな“NG行動” チェックアウト前にやってほしいこととは(Hint-Pot) – Yahoo!ニュース

ホテル業界で働くことを目指す皆さんは、将来的に「お客様をおもてなしする側」に立つわけですが、同時に「お客様の行動が同僚の労働環境に影響する」という視点も持つことで、より良い業界づくりに貢献できるでしょう。ホテル業界の働きやすさは、企業努力だけでなく、お客様との相互理解によっても高まっていくものなのです。

まとめ

2025年、ホテル業界は賃上げをはじめとする待遇改善に積極的に取り組んでおり、求職者にとって魅力的な選択肢となりつつあります。帝国ホテルの3年連続賃上げは、その象徴的な動きと言えるでしょう。人手不足を背景に、企業は優秀な人材の確保と定着のために、給与だけでなく、福利厚生や労働環境、キャリアパスの明確化といった多角的な改革を進めています。

ホテル業界への就職・転職を検討する際は、これらの最新動向をしっかりと把握し、自身の価値観に合った「ホワイト企業」を見極めることが成功の鍵となります。ぜひ、本記事で紹介したポイントを参考に、あなたの理想のキャリアをホテル業界で実現してください。

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