はじめに
ホテル業界への就職・転職を考える際、多くの人が抱く疑問の一つが「給料は本当に低いのか？」という点ではないでしょうか。確かに、かつては宿泊業・飲食サービス業全体の平均年収が他業界と比べて低い水準にあることが指摘されてきました。しかし、2025年現在、ホテル業界の給与動向には大きな変化の兆しが見えています。特に、コロナ禍からの急速な回復と深刻な人手不足が、ホテル各社の採用戦略と待遇に大きな影響を与えているのです。
本記事では、2025年3月5日に発表された「ホテル求人ドットコム」の最新採用市場レポートに基づき、ホテル業界の給与推移と人材動向を徹底解説します。求職者の皆さんが最も気になる「給料のリアル」に迫り、ホテル業界で高待遇を掴むためのヒントをお伝えします。
2025年最新データで見るホテル業界の給与動向：コロナ禍からのV字回復と人手不足がもたらす待遇改善のリアル
株式会社アイ・エヌ・ジー・エンタープライズが運営するホスピタリティ業界特化の求人情報サイト「ホテル求人ドットコム」は、2015年1月から2024年12月までの約9,000件の給与データに基づいた最新の採用市場レポートを2025年3月5日に発表しました。このレポートは、ホテル業界の給与動向を詳細に分析しており、ホテル業界への就職・転職を検討する方にとって非常に価値のある情報源となります。
レポートによると、ホテル業界の給与水準は過去10年間で大きな変動を見せています。特に注目すべきは、コロナ禍以降の回復期における給与の「急上昇」です。アルバイト・パートの時給は、2015年から2019年にかけて緩やかに上昇した後、2020年から2022年はコロナ禍の影響で一時停滞・減少しました。しかし、2023年以降はインバウンド需要の回復と最低賃金の引き上げを背景に急上昇し、2024年も高水準を維持しています。
契約社員・正社員の年収についても同様の傾向が見られます。2019年までは年平均1.6%程度の緩やかな上昇に留まっていましたが、コロナ禍では正社員の配置転換や優秀人材の確保が進められた一方、契約社員の募集は抑制される傾向にありました。しかし、需要回復局面に入った2023年には前年比+7%以上もの年収アップが見られ、2024年もこの高い水準を継続しています。これは、人手不足を背景に企業が優秀な人材を確保するために、提示する待遇水準を大きく引き上げた結果と言えるでしょう。
総じて、コロナ禍の厳しい時期を乗り越え、ホテル業界全体で給与水準が急速に改善していることが、この最新レポートから明確に読み取れます。
施設カテゴリ別に見る給与のリアル：シティ・リゾートは高水準、ビジネスホテルも底上げ
「ホテル求人ドットコム」のレポートでは、施設カテゴリ別の給与推移も詳細に分析されています。求職者にとって、どのタイプのホテルで働くかによって給与水準が異なる点は非常に重要な判断材料となるでしょう。
- シティホテル：大都市圏に位置するシティホテルは、採用時の提示年収が全体的に高めで安定して推移しています。高級志向の都市型ホテルらしく、平均給与水準は他カテゴリよりも上位に位置する傾向が見られます。
- リゾートホテル：リゾート地のホテルもシティホテルと同様に、比較的高い給与レンジで推移しています。地方に立地する場合でも、専門スキルを持つ人材の需要が高く、待遇面ではシティホテルに匹敵する条件が提示されるケースも少なくありません。
- 旅館：旅館はその規模や地域によって給与水準にばらつきがあるものの、ホテル業界全体と同程度かやや低めで推移しています。しかし、従来から人手不足が指摘される業態であり、コロナ禍以降は人材確保のため給与条件を引き上げる動きが活発化しています。
- ビジネスホテル：他のカテゴリと比較して給与水準は低めでしたが、近年は人手不足の深刻化を背景に、給与の「底上げ」が顕著に進んでいます。有期契約労働者を大量採用する傾向にあったビジネスホテルでも、優秀な人材確保のために待遇改善が急務となっていることが伺えます。
- レストラン：ホテル内外のレストラン部門の採用給与は、企業によって待遇の差が顕著で、変動幅が大きいのが特徴です。景気や観光客数の影響を受けやすいため、コロナ禍では大きく落ち込んだものの、需要回復期には高給オファーも散見されました。
- 結婚式場：コロナ禍で一時的に求人が減少しましたが、2022年以降は需要回復とともに採用が活発化し、給与水準も中堅クラスのホテルと同程度で安定しています。専門職人材には好待遇が提示されるケースもあります。
このように、ホテル業界と一口に言っても、働く施設のタイプによって給与水準やその動向には違いがあります。特にビジネスホテルの給与底上げは、これまで給与水準が低いとされてきたカテゴリでの待遇改善が進んでいることを示しており、求職者にとっては選択肢が広がっていると言えるでしょう。
なぜ今、ホテル業界の給与は上がっているのか？：インバウンド回復とDX推進
ホテル業界の給与が近年、特に2023年以降に大きく改善している背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。
インバウンド需要の急速な回復
最も大きな要因の一つは、インバウンド（訪日外国人観光客）需要の急速な回復です。観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2024年11月の延べ宿泊者数は5,812万人で、コロナ禍前の2019年同月と比べて17%増加しています。特に外国人の宿泊者数は、2019年同月比で62.0%増と大きく回復しており、業界全体の業績を力強く牽引しています（参照：ホテルへの就職の実態！ 平均年収やリアルな働き方をプロが …）。この需要増に対応するため、ホテル各社は人手不足解消に躍起になっており、それが給与水準の引き上げに直結しているのです。
深刻な人手不足と人材獲得競争の激化
インバウンド需要の回復は喜ばしい一方で、コロナ禍で離職した従業員が戻らず、深刻な人手不足という課題を業界全体にもたらしています。この人手不足は、企業間の人材獲得競争を激化させ、結果として給与や福利厚生といった待遇改善を促す大きな圧力となっています。求職者にとっては、これまで以上に好条件の求人に出会えるチャンスが増えていると言えるでしょう。
このような状況を受け、業界では人材確保と育成に力を入れる動きが活発化しています。例えば、専門学校日本ホテルスクールでは、「【観光需要増 × 人手不足】逆風のホテル業界に、学生が26名の業界リーダーへ未来像を提言。最優秀賞テーマは『本当の多様性』『台本に縛られない』」と題した弁論大会が開催されました（参照：【観光需要増 × 人手不足】逆風のホテル業界に、学生が26名の業界リーダーへ未来像を提言。最優秀賞テーマは「本当の多様性」「台本に縛られない」 | 学校法人日本ホテル学院のプレスリリース）。これは、単に給与を上げるだけでなく、多様な働き方や従業員の主体性を尊重する、より魅力的な職場環境を構築しようとする業界全体の意識の高まりを示唆しています。
DX（デジタルトランスフォーメーション）の推進
また、ホテル業界ではDX（デジタルトランスフォーメーション）の推進も進んでいます。チェックイン・アウトの自動化、AIを活用した顧客対応、バックオフィス業務の効率化などにより、限られた人員でより質の高いサービスを提供できるようになりつつあります。DXによる業務効率化は、従業員の労働負荷軽減だけでなく、生産性向上による収益改善、ひいては給与水準の向上にも寄与する可能性を秘めています。
ホテル業界で年収アップを目指すには：求められるスキルとキャリアパス
給与水準が改善傾向にあるホテル業界で、さらに年収アップを目指すためには、どのようなスキルを身につけ、どのようなキャリアパスを描けば良いのでしょうか。
求められるスキル
- 多言語対応能力：インバウンド需要の回復により、多様な国籍のお客様に対応できる語学力は必須です。特に英語だけでなく、中国語、韓国語などの需要も高まっています。単なる会話能力だけでなく、異文化への理解と敬意を持つことが重要視されます。
- IT・デジタルスキル：DXが進む中で、ホテルシステムや予約管理システム、各種デジタルツールの操作能力は不可欠です。データ分析やSNSを活用した情報発信など、デジタルマーケティングの知識も強みとなります。
- ホスピタリティと柔軟性・適応力：ホテルの根幹である「おもてなし」の心はもちろんのこと、変化の激しい時代に対応できる柔軟性や、予期せぬ事態にも冷静に対応できる適応力が求められます。
キャリアパスの選択肢
ホテルでのキャリアパスは大きく分けて「スペシャリスト」と「ゼネラリスト」の2つがあります。
- スペシャリストコース：特定の職種に特化し、専門知識とスキルを極める道です。シェフ、ソムリエ、コンシェルジュ、通訳などがこれに当たります。実力次第で専門的な職位が用意され、磨いてきたスキルを存分に活かし続けることができます。
- ゼネラリストコース：様々な部署を経験し、ホテル運営全般に関する幅広い知識とマネジメント能力を身につける道です。フロント、宿泊、料飲、営業、企画など、複数の部門を経験しながらキャリアを積み、最終的には支配人や副支配人、マネージャーといった管理職を目指します。管理職になると役職手当がつき、年収も400万円〜600万円程度が相場とされており、高級ホテルや外資系ホテルの総支配人クラスでは年収1,000万円を超えるケースもあります。
どちらの道を選ぶにしても、経験を重ね、スキルアップしていくことが年収アップへの鍵となります。自身の適性や将来の目標に合わせて、最適なキャリアパスを選択しましょう。
ホテル業界でのキャリアパスについてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。ホテル業界のキャリアパス徹底解説：あなたの未来を拓く職種別モデルケース
まとめ
ホテル業界は「給料が低い」「激務」といったイメージを持たれがちですが、2025年現在の最新データからは、その状況が大きく変化していることが見て取れます。特に、インバウンド需要の回復と深刻な人手不足を背景に、給与水準はV字回復を遂げ、企業間の人材獲得競争が待遇改善を後押ししています。
もちろん、ホテルや職種によって給与水準は異なりますが、多言語対応能力やITスキル、そして何よりもホスピタリティの精神と変化への適応力を磨くことで、年収アップのチャンスは十分に広がっています。スペシャリストとして専門性を追求する道も、ゼネラリストとしてホテル経営の中核を担う道も、あなたの努力次第で理想のキャリアと高待遇を掴める可能性を秘めているのです。
ホテル業界への就職・転職を検討している皆さんにとって、今こそが好機と言えるでしょう。最新の情報を踏まえ、自身のキャリアプランに合った企業選びとスキルアップに励んでください。
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